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うつろう

浄土真宗・永照寺・松岡 洋之


 「お父さん、お腹がポコッと出ているね。」

 お風呂上がりの私を見て娘が言いました。

 言われてみれば気になるもので、鏡をのぞいて自分の姿を見てみますと、確かにお腹が出てきているような気がします。

 今度は、まじまじと顔を見れば皺がある様な気もします。

 髪も薄くなったようだし、白髪も見つかります。

 ムムムッと思いましたが、どうすることもできません。

 今から2500年以上も昔、お釈迦さまは「諸行無常」と説かれました。

 この言葉は、人生や生命のはかなさ、死を連想させる言葉として私たちの日常用語となっていますが、悲しみをあらわすだけの言葉ではありません。

 「諸行無常」とは、すべてのものは移ろい変化し続けて止まることがないという意味であり、事実をありのままにのべた仏教の真理の一つです。

 いつまでも若くありたい、健康でいたいという気持ちは誰しもが持っている事でしょうし、否定されることではありません。

 しかしその一方で残念ながら老いも健康も止めることはできません。

 誰もが頭では分かっていることです。

 人が生れることも、老いることも、病をもつことも、死ぬことも、「無常」のなかにあります。

 ありのままの現実として自分も他人も誰一人この「無常」から逃れることはできません。

 頭では分かっていながらも、現実に逆らい続けます。

 現実を突きつけられ、逃れられない苦しみを受け入れることの難しさ。

 今という時は、ただこの瞬間にしかないのに、現状がいつまでも続くと思ってしまっている私たちの心を正す言葉が「諸行無常」です。

 お腹が出ることも、髪が白くなったり薄くなったり、身体が思う様に動かなくなることも順調に年を重ねさせていただいている証拠であると聞かせていただきます。




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