阿武町奈古の昔話に「恩返しをした狼」という話があります。
今から150年ぐらい前の事である。奈古の上郷に「猿百合おじ」と言う猟師がいた。鉄砲の名人で、よく猿を撃っていたのと、猿のように山の中を自由に駆け回っていたので「猿百合おじ」と呼ばれていたそうである。
ある日のこと、熊野山で猟をしていると、一匹の狼がのどに骨をひっかけて苦しんでいた。
こつって(咳き込んで)苦しそうにしているので、さしもの「猿百合おじ」も可哀想に思え撃つのを止めて狼の口の中に手を入れてその骨をとってやった。
狼はやっとこつる(咳き込む)のを止めて尾を振って喜んで逃げていった。
日頃殺生ばかりしている「猿百合おじ」は、ええ事をしたと言う思いがあったのだろう、この日は猟を止めて早う家に帰ったそうである。
そして、不思議な事がそれから四五日して起こった。
「猿百合おじ」が朝起きてみると家の前に大きなイノシシが一頭置いてあった。
キツネにつままれたような話で訳が解らない。
思い当たることと言えば、骨をとってやった狼の事しかない。
きっと狼の恩返しに違いない、そうだ、そうだと言うことになった。
それから人より狼の方が恩をよく知っているという話が広まったとの話である。
拝むと言う言葉は、恩をかみしめると言う言葉が語源だと言われている。
恩をかみしめる、恩をかむ おがむと、言うように変化したと言う訳である。
私達も、もう一度 親や先祖の方々に思いをめぐらし、恩をかみしめ手を合わせたいものである。