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          ね こ

曹洞宗・海潮寺・木村隆徳


三年くらい前だったでしょうか、道を隔てた地蔵堂で後片づけをしていましたら、どこからか子猫がやってきました。腹ぺこの様子でしたので思わず残り物をやりました。その猫とのつき合いの始まりです。

毎朝の五時のお寺の梵鐘をつく前に地蔵堂の門を開けに行きますが、その時に餌をやっていましたので、いつの間にか、まだ暗い道に出て私を待っているようになりました。夕方、門を閉めに行くときも餌をやっていましたので、やはり道で待っていました。そして地蔵堂でお経をあげる朝六時半頃には椅子に丸くなっているのが日課でした。

そんな生活が一年くらいになろうとしていた頃、この子猫は知らないうちに自分の子猫を生みました。大人(大猫?)になったのです。地蔵堂が猫だらけになっても困ると思い、既に人間に刃向かうようになっていた三匹の子猫を悪戦苦闘の末つかまえ、後を保健所に託しました。

親猫は少し寂しそうでしたが、やがて元の生活に戻りました。ところが、またもや子供を宿したようなのです。もう一度、子猫と悪戦苦闘するのはご免だと思い、道を隔てたお寺に連れて行き、木小屋につないで手の届くところで生ませることにしました。

今度は難なくまだ目のあかない子猫をつかまえ、再度保健所のお世話になりました。そして二度目のお産を機会にこの猫は地蔵堂からお寺の境内に生活の場を移すことになったのです。

でも家の中に入ることは禁止されていました。猫小屋を造り、中には毛布で寝床を用意してやりましたので、この猫は猫小屋を自分の家と納得したようです。冬には正面に戸を付けてやり、十センチ程の出入口には防風用ののれんも垂らしてやりましたので、雪の降る日も仕方なさそうにのれんをくぐっていました。

そんなある日、あるお檀家さんから猫は一年に三回もお産をするらしいと聞きましたので、悩んだ末に半野良のこの猫に避妊手術をすることにしました。

術後、四日も餌を食べず、獣医さんに電話をしたりして気をもみましたが、五日目にやっと食べはじめました。しかし、それからこの猫は猫が変わったのです。寒い外でちょこんと座り、ガラス戸越しにこちらを見ています。避妊によって猫社会からはじき出されたらしいのです。

仕方なく家に入れてやることにしました。夏は安楽椅子を占領し、冬の今はコタツを占領していますが、どこか猫なりに自然のリズムで生きている感じです。人間の私が猫にしたような勝手は一切致しません。そして自分のことは自分でできる赤ちゃんみたいです。眺めていて癒されます。

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。