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      紅炉上一点雪(こうろじょういってんのゆき)

曹洞宗・海潮寺副・木村延崇


 今、寺の茶室には、一幅の茶掛が掛けられており、「紅炉上一点雪(こうろじょういってんのゆき)」とあります。

 真っ赤に燃える炭火に、一片の雪が降り落ちても、一瞬のうちに溶けてしまい、跡形もなく消え去る様子で、何が起こっても、決して心を引きずられない、禅を極めた心境を表しています。

 中国古来の禅の教えが説かれた「碧巌録(へきがんろく)」に見られる禅語で、寒さが一番厳しいこの時期に茶席で好んで用いられる一行書です。

 さて、私たちの心というものは、常に外界の出来事に振り回されるものです。

 心が引きずられ、いつまでもくよくよしたり、いつまでも恨みが晴れないこともあります。

 しかも、それが習慣として身に染みついていますから、消し去ることは容易いことではないのです。

 そこで、そわそわした日常を一旦離れ、ある人は坐禅をしたり、あるいは茶道や書道に打ち込むことで、心の平安を得たいと願うのでしょう。

 その最も効果的な方法としては、音を遮断することが大切です。

 テレビの音、外を走る車の音など、人工的な音から離れるだけで、ほっとする人は多いのではないでしょうか?

 茶室の静寂の中で、炭火は音もなく静かに燃えておりますが、たまにパチッと火の粉が弾けるときがあります。

 しかしまた元の静けさに戻り、何事もなく釜を温めます。

 「紅炉上一点雪」の茶掛が、茶席に掛けられるのに相応しいと実感できる一瞬でもあるのです。